2021年5月13日木曜日

「高速道路への眼差し」を探る

高速道路研究の別アプローチ

タイトルを「高速道路への眼差し」としてしまいましたが、「眼差し」の部分については、的確なキーワードが見つかっていません。
見つかっていないというよりは、自分がこれまでに経済地理学をメインに勉強してきたので、的確な言葉を知っていないという方がいいかもしれません。

これまでに、高速道路と地域に関する研究では「高速道路の整備が地域にどのような影響を与えたか」がメインテーマとなって研究されてきました。高速道路ができることで、観光客が増えた、農産物の出荷が容易になり生産量が増えた、工場が立地して工業生産が増えた、こういった変化が研究されてきました。
これらの先行研究は地理交流広場第1号に寄稿した記事で紹介していますが、観光客数・生産額などの数値的分析から地域に入っていく、経済地理的分析です。

しかし、そのような研究だけで高速道路と地域との関係性がわかるわけではありません。
「地域の人にとって高速道路はどういう存在なのか」「地域における高速道路の位置づけ」といった、人にフォーカスした研究によって、その地域の人と高速道路の関係性が明らかにできるはずです。

私はこれまで経済地理寄りの勉強をしてきて、そういったヒト一人一人へのアプローチが不勉強なので、この記事は、メモ書き程度の気持ちです。
不十分な点や、不足している視点など、アドバイスをお願いします。



どんな視点があるのか

それではどのような視点があるのでしょうか。
高速道路がどのような場所として認識されているのか、個々人から社会まで、5つの視点の可能性を示したいと思います。


①個々人にとっての高速道路

高速道路をとりまく人が、高速道路をどういうものとして認識しているか、これも研究視点の1つかもしれません。

高速道路と似た交通機関として新幹線があり、新幹線は「地域に希望をもたらすもの」、新幹線の駅は「遠くへ行く・遠くから来る玄関口」といった認識があるのかなと思います。そのような新幹線は旅客輸送のみという単純な構造です。

一方で高速道路は、
  • 職業ドライバー
  • 運転手
  • 乗客
といった様々な利用者がいるので、新幹線のような単純な議論ができないのが悩みどころです。


②都市や町の中での高速道路の立ち位置

②-1 都市のなかでの高速道路の立ち位置

都市や町のなかで、高速道路はどういう立ち位置なのでしょうか。

在来線の鉄道駅は町の中心であり、新幹線の駅とれば都市の玄関口になるかと思います。
それでは、高速道路のインターチェンジはどういった存在なのでしょうか。
鉄道駅に比べると"玄関口"や"中心"といった存在ではないでしょう。インターチェンジ周辺にロードサイド店舗が集まり、都市の中心市街地と対比されることもありますが、その実態と住民の心理的な位置づけはどうなっているのでしょうか。
また、高速道路のパーキングエリア・サービスエリアは、地域にとってのショーウィンドウになるのでしょうか。

参考になる議論を2つ提示したいと思います。

1つは、新幹線の郊外駅に関する議論。
新幹線の郊外駅は、都市の中心にある駅に比べて、住民からの心の距離が大きくなってしまいますが、その心理的距離を縮めて、物理的には遠くとも心理的距離を住民に近くしようとする取り組みの報告があります。

2つ目は、都市構造に関する論文。
菊池(2005)は、高崎を事例にして、鉄道駅前にあった営業機能が、国道沿いからさらには高速道路のインターチェンジ周辺へ移動していると分析しています。
また、李・水谷(2007)や亀山(1988)がインターチェンジ周辺の土地利用の変化を考察しています。
これらの研究は立地論寄りの分析で、人の認識へのフォーカスからは外れてしまいますが、参考になる指摘だと思います。

地図:先行研究で取り上げられた高崎・前橋



②-2 交通の変化と都市・町

交通機関自体、絶えず変化し続けています。

古代から近世にかけては徒歩で歩く道や舟運による川が交通路となり、宿場・河岸が都市や町の中心であり玄関口となっていました。
それが近代になり、鉄道が敷設され、鉄道駅が町の中心になります。
その後、自動車が普及し郊外ロードサイドへと商業機能が移っていきました。

このような交通と都市・町の関係性に、高速道路はどう位置づけられるのでしょうか。
河川交通や徒歩交通から、鉄道交通へ移行して、人々の認知もそれに合わせたものになってきましたが、未だに高速道路は人の町や都市に対する認識に入っていないように思えます。

地図:郊外化が進む浜松



③地域の中での高速道路の立ち位置


③-1 交通路の変化と地域構造

前章で話しましたが、古代から現代にかけて、徒歩・舟運→鉄道→自動車と交通機関と交通路が変化してきました。それによって地域構造も変化してきました。

高速道路も地域構造に変化を与えます。
例えば、中国地方だと、中国道沿線の都市が、中国道が開通する前は瀬戸内沿岸との繋がりが強かったのが、中国道ができたことで大阪へという横串が刺されたという指摘が多くあります。
地図:中国道の開通によって関西圏との繋がりも強くなった津山

先行研究だと、山梨県を事例として「交通システムの発展と社会的要因との関係」で交通路の変化がまとめられています。

図:交通システムの発展と社会的要因との関係より引用


このような変化は、時間距離だけではなく、心理的な距離感にも変化を与えます。

このように、地域間の繋がりに高速道路が与えた変化も見逃せないでしょう。


③-2 高速道路による空間認識の歪み、高速道路で距離感が変わる?

前項で、高速道路によって心理的な距離感が変わる可能性を示しましたが、高速道路によって空間認識が、現実空間と大きくずれて歪む可能性があります。

鉄道は町や都市の配列に沿っている(鉄道が配列を作ったのかもしれませんが)のに対して、高速道路は町と町の間や裏を抜けることが多く、都市自体も見えにくいことから、町や都市の配列を認識しにくくなっています。
このように、高速道路を使うと都市の並びだったり都市規模に関する空間認知が狂うこともあるのではないでしょうか?

こんなコメントをいただきました。

高速道路だからこその空間認知の歪みという視点も面白いかもしれません。



④社会のなかでの高速道路の立ち位置

はたしてこの視点が「人」や「地域」にフォーカスした視点になるのかは疑問ですが、高速道路が社会にどう認識されてきたかという視点があるかと思います。
  1. 高速道路は整備最初期には、地域に現代化をもたらすものとして期待されていました
  2. 整備が進んでいくにつれて、公害をもたらすものとして建設反対も起きます
  3. バブル崩壊後には、高速道路は無駄なインフラの象徴としてバッシングされました
  4. 近年の相次ぐ大規模災害を受けて、災害対策の象徴として重要性が再認識されつつあります
このように、高速道路の社会のなかでの立ち位置は大きく変っています。


⑤高速道路建設をめぐる眼差し

高速道路を建設するときには、建設する地域で大きな反対運動が起きることもあります。

こうした反対運動を経て、最後には高速道路が建設され開通するまでの過程も研究の対象となります。

道路をはじめとしたインフラ建設に対する住民運動は社会学の分野で多く研究されています。特に多くの研究がなされているのは、ダム・原子力発電所などですが、高速道路の研究もされており、中央自動車道における反対運動は多くの記録が残っています。

地図:反対運動によりシェルターが作られた烏山の団地

このような住民運動は、1960年代から1970年代に多く研究がされてきました。

近年では、社会学の住民運動に関する研究は、住民運動から市民運動へと関心の対象が移っています。運動そのものから、コミュニティ形成や行政への住民参画へと関心が移っている印象を受けています。

それでは、高速道路をはじめとしたインフラ整備に対する住民運動の研究は十分になされてきたのでしょうか。
少なくとも高速道路の住民運動に関する研究に関して言えば、事例研究が並んでいるだけで、それら個々の住民運動を総合した展望を述べた論文はあまり見かけません。

点モノのインフラ(原子力発電所・ごみ焼却施設)は、反対運動が一点に集中して、団結を生みやすいものです。
それに対して、線モノのインフラ(高速道路・新幹線)の住民運動は、場所場所で利益を受ける者と、公害を受ける者、所有地が高速道路敷地になる者と、影響の受け方が異なります。
このような影響の違いは、地理学的視点が生きる視点であると思います。

また、社会学や文化人類学では、高速道路をはじめとした公共事業に供される土地への人々の眼差しが研究されています。

航空写真:ミカン畑


まとめ

こうして文章にしてみると「なんか当たり前の話だな」と思いますが、意外とこの基礎の部分に焦点を当てた文章や論説はありません。
このような視点でも高速道路を考察していきたいと思いますが、まだまだ勉強が追いついておらず、アドバイスや新たな視点、お待ちしております。


追)頭の片隅に浮かんでは沈んだ思考の断片

◆高速道路と地名
高速道路のIC,SA,PAにつけられた地名は、実際の都市規模に応じていない地名であることがしばしば。地名の認識に歪みを生むのでは?という疑問

◆高速バスの乗客や、車に同乗する人の眼差し
高速道路はたしかに存在していますが、高速バスの乗客や、車に同乗しているだけの人は、出発地から目的地まで移動のなかでいつの間にか高速道路を通過していて、高速道路の出入口とか高速道路がどこにあるのかとか、全く認識していないのではという疑問

◆地域から高速道路を見るのか、高速道路から地域を見るのか
ここまでいろいろな視点を提示してきて、地域から高速道路を見る視点と、高速道路から地域を見る視点とに、視点を分けられるのではないかと思いつつも、頭の中で明確に整理できず…。考え続けたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿