2021年6月20日日曜日

発表「高速道路をめぐる眼差しを探る」の振り返り

2021年6月20日(日)にみんなで地理プラーザ!の企画として発表した「高速道路への眼差しを探る」での参加者と発表者(私)とのディスカッションや質疑応答、参加者の方からのアドバイスの内容をまとめました。


踏み込んだ考察は地理交流広場第3号への寄稿で整理したいと思うので、あっさりとした書き出しになってしまうかもしれませんが、ご了承ください。

青字は参加者の方からのコメントや指摘、黒字が発表者の考察やコメントです。


 高速道路の定義について

今回の発表での高速道路には無料区間(新直轄方式)も含めるか?

⇒無料区間も含めて高速道路としてお話しします。


交通路・交通手段・交通インフラの変遷

これまでに、徒歩(街道)→舟運(川・海)→鉄道と交通手段が変化してきた。それと比べて高速道路の登場や整備は一連の流れに位置づけられるのか。これまでの交通手段の変化と異なるか。

⇒高速道路の登場は、地域構造や経済システムを大きく変えた(変える下支え)となったことを考えると、これまでの交通手段の変化の過程に位置づけられるかもしれないけれども、人の認識を考えるとまだ町の心理的な中心が鉄道駅にあるように思える。そういう意味では、まだ高速道路(をはじめとする自動車交通(道路))へ交通手段が移りきっていないのではないようにも思えます。

社会における高速道路

アメリカでの人種差別と高速道路

「ブティジェッジ運輸長官が驚愕発言「米国の高速道路は人種差別的」」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83280?imp=0)の紹介に関してアメリカでの人種差別と高速道路の記事については、BLM(Black Lives Matter)の流れになる

⇒アドバイスをありがとうございます。


地域・社会の発展の手段としての高速道路・道

・日本は参勤交代という制度があったため街道が古くから整備されて宿場町が発展していたが、これは世界的に特異な状況だったのではないか。

・高速道路は発展途上国においてはインフラ整備・開発として重要な役割を担っていて、重要な「開発手段」の一つであり、「開発手段」として認識されている可能性。

・世界的に、第二次世界大戦以降の政府ないしは地方政府・自治体のインフラ事業の中心として整備が推進されてきたイメージ

⇒今回の発表では、日本の社会・地域構造・地域・人というところに焦点を当てましたが、もっと視点を引いて、世界における高速道路の位置づけと考えると、国土・発展途上国の「開発手段」という側面も見えてくると思います!発表者が今まで見逃していた視点でした。現に、日本の高速道路各社が海外事業を行い、高速道路の建設を発展途上国へ売り出しています。これも「開発手段」の輸出として捉えられるかもしれません。


SAPAという存在

「SAPAは地域のショーウィンドウ」という発表に対して

・道の駅が地域の拠点、発信の場になってきたのと同様に、高速道路のSAPAも地域を発信する場という役割が求められている印象

・最近のSAPAは地域の特産品をアピールしたり、エンタメ化したりしている。

・欧米のSAPAに比べると、日本のSAPAは地域の特産品が売られていて地域性を楽しめるものになっている

⇒最近では、特にNEXCO中日本の新東名高速のSAPAをはじめとして、エンターテインメント性のあるSAPAが建設・リニューアルされていると思います。地域のショーウィンドウとなっているSAPAとはいえ、閉鎖的な高速道路空間の中において地域とのつながりが少ないのが気にかかっている点です。外部開放ゲートが整備されつつありますが、それでも鉄道駅(や道の駅)のような「地域の核」にはなっていない印象を受けます。


地域構造と高速道路

鉄道と高速道路での認識のズレ、軸のズレについては、地理人さん(今和泉さん)の著書にも似たような記述がありました。

⇒読んでみたいと思います!紹介ありがとうございます!


地域にとっての高速道路

・鉄道であれば、鉄道車両が祀られている神社がある。高速道路はそんな存在にはならないのか。

参考記事:日経新聞「鉄道神社、ご神体は引退車両 茨城の阿字ケ浦駅に完成」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC191VJ0Z10C21A6000000/)

・まだ高速道路は路線として廃止となった道路はなく、もし廃道となればそのときに地域の高速道路への愛着だったりが出てくるのではないか(高速道路については、線形改良による廃道区間は存在するものの、一区間や一路線の廃道の事例はない。)

・名神高速道路の開通時の写真はノスタルジーの対象となりつつある印象

・近世までの道路には道祖神や石仏があったり、鉄道の社内にも沿線寺社の札があったりと、安全への信仰があったが、高速道路にはそれが見られない

⇒鉄道車両が祀られた神社というのはおもしろい。それは極端な例かもしれないが、たしかに地域にとって鉄道というのは大きな意味を持つ存在である。各地の郷土資料館では、廃線となった鉄道が地域の一時代の象徴として展示されているのに対して、高速道路はそういう存在となっていません。国道などで廃道となった道路が多くあるが、一部の愛好家の方が探索している一方で、地域の人はそれを認識もしていないことが多い。そう考えると、高速道路が廃道になっても、鉄道の廃線のようにはノスタルジーの対象にはならないかもしれない。

⇒安全への信仰という点については、高速道路は高速で自動車が運転されるという空間の性質上、安全のために余計なものは設置しないという暗黙のルールがあり、そういった安全への信仰が景観に現れにくいのかもしれない。


外から見たときの見た目や地域を分断するモノとして

・高速道路は、地域から見えづらい印象を受ける。この見えないという意味では地下鉄と似ているか。また、外から何の構造物かわかりにくいが地域を分断している点では放水路、天井川も同じような見た目だろうか?

・高速道路は移動するための手段であって町の一部という意識はさほどない。それは町の端を通っていたり、中心でも高架だったりするから意識しないのかも。

⇒高速道路が意識されずらい構造になっていたり、意識されずらい場所を通っているというのは面白い視点だと思います!

ICの名称

・ICはどうやって決められるのか

(小話)「米原」「三条燕」の命名


都市と高速道路

都市のなかでの高速道路

・近年では商業機能・商業的中心地が駅前から郊外のIC周辺などに移っている

・IC付近の郊外型商業は地元資本ではなく中央資本の店舗が多い。

・ICのまわりには工業団地がよく整備されている。

⇒商業機能や工業機能が高速道路のIC周辺をはじめとする郊外に移っているのは事実なのです。

・結局高速バスのバスターミナルはICではなく駅

⇒一方でそれでも行政や人の意識は駅前に残されているように感じますが、どうでしょうか。


都市構造と高速道路

・高速道路と、街道・鉄道とで、点・線の構成が違う

・鉄道忌避の話と高速道路が都市を避けて通っていることは、共通しているのか

⇒高速道路と、ほかの交通機関とで、都市・地域構造スケールで見たときの、その点・線といった構成の違いは整理してみるとおもしろいかもしれません!


高速道路という空間の性格

・公共に共有されるべき場所、誰かのものになると困る空間

→日本では歴史的に「誰かに私的所有された道」というのは多くない印象を受けます。現代の道路では「道路無料公開の原則」という原則があり、この原則からすれば高速道路が公社や高速道路会社によって料金を徴収されている状態は、イレギュラーな状態です。また、道路法によって道路空間は私権が制限されています。(少なくとも日本では)それだけ公共性の高い空間なのでしょう。


移動のための空間として

目的地に着いたという感覚はいつ得られる?

空間を移動する感覚、移動途中の空間に対する感覚

・高速道路という空間はワープ装置のような印象を受ける。高速道路の中に入ると景色やSAなど多少の違いはあっても、どこまで行っても高速道路という同じ空間が広がっている。

⇒高速道路の空間性を考える上で重要な感覚だと思います。

・県境の看板(カントリーサイン)、ICを降りたとき、ICを降りたところにあるような「○○へようこそ」の看板で、目的地に着いたと感じる

・交通機関ごとの『目的地に着いた』の感覚が違う。高速道路は上述のとおりだが、鉄道は町に近づいてきて目的地に到着すると感じるし、地方空港は町から遠いため空港では到着した感覚が少ない。

⇒先述しましたが、高速道路の走行空間は、運転手が高速で自動車を操作するための安全性のため、余計なものは作らないというのが高速道路空間の基本で、そういった意味で目的地に近づく感覚が少ないのかもしれません。また。鉄道は、町に入って駅に到着しますが、高速道路は町中を通過することが少なく、インターチェンジも町から離れたところにあることが多く、それも目的地に到着する感覚を無くしている要因かもしれません。

・高速道路を利用する車も、基本的にはドアtoドアで、高速道路で足を降ろさない。出入り口で降りたりはしない。その点、料金所は駅になりえないし、高速道路という空間が意識されない。

・ICは駅のようなエンターテインメント性やコミュニケーション性が無い

⇒一般道からの、結節点(境界点)となるICの、連続性というのは高速道路への意識における重要なファクターかもしれません。


高速道路から見える車窓、鉄道から見える車窓

・高速道路からの車窓が好き、見える景色が好き

・鉄道や下道で旅する時と高速道路で旅する時とで、地域や車窓の印象が変わる気がする

→高速道路からの車窓や景色に、ほかの交通機関の車窓とは異なる印象を受ける方が多いようです。それでは、ほかの交通機関と異なる印象を受けるのはなぜなのでしょうか…?地域を見る視点の違い、速度の違い、席や車両の違い…何が異なる景色を見させる要因なのか、考察が必要かもしれません…。


高速道路への反対運動

高速道路への反対運動

反対運動でルートが変更になったり、ある地域を外すようなルートになった事例はあるか?


風水と高速道路

・韓国では高速道路が風水的な地理を分断するという理由での反対運動があり、高速道路によって「気」が集落に降りてこなくなったということでの自殺といった報道も。

→信仰や風習という意味では参道の分断も似ているのではないか。

・高速道路は高架構造などで参道が分断されるという事例は少ない。


別の視点を求めて

物流業者・物流ドライバーから見た高速道路

・物流業者や物流ドライバーの方から見た高速道路は別の空間に見えるかもしれない

⇒たしかに一般の人が鉄道や鉄道駅を見るような視点で、高速道路やICを捉えているかもしれません。職業ドライバーの方だと最近開発・リニューアルされているSAPAは使いにくい空間となっている可能性もあって、そのような視点も高速道空間を考えるのに重要な視点かもしれません!


環境のなかでの高速道路

社会・地域・人から見た高速道路というほかにも、自然環境から見た高速道路という視点もある。

⇒アドバイスをありがとうございます!


その他

・SICの整備が近年進んでいる

・新直轄方式で整備した路線と、有料道路方式で整備した路線との違い

・ 日本は地形が急峻かつ未開発の平地がほとんどないことで、ヨーロッパなど大陸に比べて交通整備が難しく、事業費の増大が普通になる・より高規格なものが求められる印象がある

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