2020年5月9日土曜日

自分の人生と地理について語ってみる回

自分の生い立ちと、地理学への興味と、これからの人生について書いてみたいと思います。

このブログで様々発信をしていますが、かなり偏った私独自の「地理観」に基づいて発信をしているので、
各記事を読む際の前提、というか注意書きとでも思ってください。





1.地理に興味を持ったきっかけ


1-1.地図好きから


自分が地理に興味を持ったきっかけは、幼稚園生のころです。
そのころ、ひたすら都市地図を見るのが好きでした。
で、地図を見るのに飽きたら、鉄道の配線図や、高速道路の地図や、都市を空想した地図を描いてみる… 完全に地理オタクな子供でした。
とにかく地図を見て、行ったことの無い場所(都市)を想像して、新しい街を地図に描いてみたりするのが大好きでした。
冬にはこたつに入って都市地図を眺めていたものです。

地図が好きだと、地図が使われる地理も好きになってくる。
小学校・中学校では地理が好きでした。
小学生・中学生・高校1年と、テストでは地理だけ頑張って高得点を取っていました。

ただし高校1年生までは、ぼんやりと「地図・地理が好きだなぁ」という気持ちだけで、明確になんで地理が好きなのかとか、そんなに意識していなかったと思います。


1-2.高校3年生で


高校3年生のときに、本格的に地理にのめりこみます。
のめり込むというか、明確な地理が好きな理由ができて、愛着が湧いたという感じです。
そのとき、地理が面白いと思った理由は2つ。

1-2-1.モノゴトの繋がりから問題が解けること

高校で地理を勉強していると、他の科目に比べて、物事の繋がりで正解が導けるのが楽しかったのをよく覚えています。
「地理は覚える教科ではない」と思って、地理をとてもおもしろく思いました。

  1. 赤道が最も太陽の熱を受けて上昇気流が発生する。
  2. 地球の自転により偏西風・貿易風が発生する
  3. 海流も上記2点とともに法則性を持って流れている。
  4. 陸は熱されやすく冷えやすく、海は熱を吸収する
  5. 火山・地震は造山帯に分布する
ひとまず上の5点の物理法則から推理すると半分くらいの問題が解けます(笑)
例外も出てきますが、問題に出てくるような例外はお決まりの事例なので、秒で解けますね(笑)

農作物の生産ランキングで例えるなら、
  • 農作物生産の裏に自然環境や文化が影響している。
  • 自然環境は大気の大循環で説明できる。
  • つまり、地球の地軸がずれていることを理解すれば問題が解ける。
そんな繋がりが面白いなと思いました。


1-2-2.実生活とつながっていること

また、面白いと思ったことがもう1点あり、「実生活との繋がり」がもおもしろいと思いました。
地理で学んだことが、「街の中に広がる地形」「食卓の農産物」「ニュースの国」として実生活に登場する。
それが面白いと思いました。


1-2-3.地理学を目指すことにした

このように
  • 一見、場所場所で全く異なるように感じる地球の現象も、一定の法則によって現象が起きていて、それを理解すれば問題が解ける。
  • 勉強した内容が実生活でも出てくる。
これがとてもおもしろいと思いました。

こうして、ぼんやりとした「"地図" "地理" が好き」という段階からステップアップしたのが高校3年生の時でした。
そして、これが大学で地理学を選択する理由となりました。


1-3.大学受験


大学進学にあたって、高校当初は、経済学・地域学・都市工学なども選択肢にありましたが、地理学専攻に絞って受験することにしました。
私立大学地理学科となると、受験科目は、英語・国語・地理の3科目だけです。
地理はもともと高得点が取れました。国語も小説を読むのが好きだったのでわりと得点は取れました。
となれば勉強すべきは英語だけです。(受験勉強を始めた当初は「大学行けないよ?」と英語教師に言われるくらいの英語赤点学生でした)

英語:現代文:古典:地理=4:1:1:1
くらいの勉強量で英語の点数はめきめき上昇。
無事に私立大学の地理学専攻に合格しました。



2.大学での地理学の学び


大学では、人文地理から自然地理、そして地図学・GISに至るまで開講されている地理学の授業をなるべく全て受けるようにしました。

私の大学の開講科目では
  • 人文地理 → 流通地理学、エスニック地理学、都市地理学
  • 自然地理 → 地形学
  • 地図学・GIS → 基本的なGISの操作
このような分野がメインで開講されていたので、それが私の勉強のメインストリームとなりました。

大学での学問としての地理学を学ぶにあたり、「おもしろい」と思ったことは、高校の時と同様で「一見ただの景色である社会の中で、空間的な法則を明らかにする」という点でした。

※補足
大学生の時には「地理学は空間的視点で法則を見出すのが至上命題だ」と考えていました。
これは極端でしたね。社会人になってからは「法則を見出すのも大事だけど、社会現象の実態解明が大事」という方向に徐々に転換していきました。


3.私の考える地理学と、その社会的意義


3-1.地理学の立ち位置?


地理学を勉強している人は、常に地理学のアイデンティティや社会的な役割に悩んでいます。
そして、悩みに悩んで「地理学はもっと社会貢献するべきだ!もっと政策提言をするべきだ!」という結論に至ることもしばしば。
そのような形で社会貢献することはとても大事だと思いますが、私の個人的な考えとしては、「無理に政策提言だったりをしなくてもいいんじゃないかな…」と考えています。

社会の問題を解決するには
  1. 社会の成り立ち、現状の問題点を認識する
  2. 問題点を解決する方策を考えて実行する
という2段階あるかなと思います。

学問分野によって、得意不得意があると思っています。
地理学は特に、①の「認識」を得意とする学問です。
一方で、②の実践的な問題解決は苦手。

しかし、それはそれで学問の個性であり、社会にどういう問題があるのかを明らかにすること自体に、大きな価値があるのではないかと考えています。
ですので、無理に「政策提言をしなくてはならない!」というように考える必要は無いのではないかと思っています。


3-2.地理学のアイデンティティ


地理学はよく「他の分野の成果の借り物の学問だ」なんて言われて、地理学者はショボーンとしています。
 地理学のアイデンティティについて時折議論になりますが、私の考えとしては、次の3点が核となっているのではないかと思っています。

【空間的視点】
モノゴトを空間的に分析すると何が言えるのか、と言うのが地理学の一番のエッセンスだと思っています。

【地域という視点】
空間を任意に区切った「地域」という単位で、モノゴトを捉えるのも地理学特有の見方。

【人と環境の関わり】
人間と自然環境がどのように影響し合っているのか、これも地理学の重要な視点です。

私は上記の3点が地理学のエッセンスだと考えています。
なお、地図やGISは、上記の視点でモノゴトを見るときの重要なツールであるというのが、私の認識。

3-3.地理学がいかに社会の役に立つのか


地理学が社会にいかに役に立つのか、

①空間的視点による発見がある
空間的視点による新しい発見があります。
経済学の視点では、お金の動きを数式で見るだけです。
それを経済地理学の分野で、空間的に分析すると、これまで捉えられなかった穴があったりする。
そんな発見をするのが地理学の役割だと考えています。
 
②世界を身近に感ることの重要性
普段の生活では、知らない世界を知る機会は少ないです。
しかし、地理学を学ぶことで、知らない世界で何が起きているのか知ることができます。
地理学は「空間的な差」から出発する学問なので、社会の多様性を知って、世界を身近に感じる有用なツールであると思います。

③環境とのかかわりを学び、総合的に判断する学問であること
世界の諸問題を見た時に、経済学ではお金の流れだけを、理学分野では環境問題のシステムだけを、といったように分野ごとの視点で終わってしまいます。
地理学の視点で、環境と人がどのように関わっているのかを知ることで、環境問題や貧困問題などの解決をちょっとだけでも前に進めることができるのではと思います。


3-4.地理と地図と地理学


よく話題に上がる「地理学」と「地理(趣味)」の違い。
私は、「地理学」と「地理(趣味)」は、同じ延長線上にはあるけれども、その性質は少し違うものだと思っています。
ただ、「地理(趣味)」から「地理学」的な発見・見方をすることもできるだろうし、「地理学」の研究成果が「地理(趣味)」に繋がっていくこともある。
「地理(趣味)」も「地理学」も、空間的なモノの見方をして、地域という視点で見ることには変わりないし。
人によっては「地理学」が好きで、人によっては「地理(趣味)」が好きで、両方とも好きな人もいるし、
あまり、根詰めて両方の定義を考える必要は無いのかもな…。

この話をすると、収拾がつかなくなるので、また別の機会に。


3-5.ちょっと小話。歴史学と地理学。地理学に足りないコト。


少し話が逸れますが、地理学の兄弟学問とも言われる「歴史学」(地理が空間軸で、歴史が時間軸、と言われます)とはどういった学問なのでしょうか?
私なりの解釈ですが、歴史学は時代時代の社会的背景を知り、過去の事実を多側面から解釈する学問だと考えています。

「歴史上の人物AがBという政策をした」こういった事実があるとして、政策Bは現代の価値観からすれば極悪非道な政策だったかもしれません。しかし、当時の世界ではその政策が最もスタンダードな価値観だったかもしれない。同じ時代の人々でも場所や社会階層を変えればBという政策は批判的に捉えられる…といったように、歴史的な事実をどう解釈できるのかを検討する学問だと考えています。

一方、地理学を勉強している人は、「事実は事実」で、「科学的な真理が存在する」と考えがちです。(特に自然地理学・経済地理学が専攻の人はそうかな?)
しかし、現在の日本の東京で起きている事実も、場所を変えれば、北海道であれば、中国であれば…、異なる解釈ができるはずです。
都市の再開発も、再開発する側とされる側、ミクロなスケールからマクロなスケールまで、注目する場所とスケールと人が違えば、価値判断が異なってきます。

地理学は「場所によって違う現象が起きる」という、多様性から出発する学問です。
地理学を勉強するには、このような価値観の多様さを念頭に置く必要があります。
特に、地理を勉強する人に欠けがちなことです。



4.地理の何が好きなのか。


さて、結局のところ、自分が地理学の何が好きなのかと言うと、

  • 地理学の分野で、色々な先生方が唱えている仮説や理論を集めて、整理して繋がりを見いだす

のが楽しいだけなのかもしれません。

正直、理論のこと細かいところまで根詰めて考えて、地道にフィールドワークして何時間もかけてデータ処理して数値分析して…という研究が自分にはできる気がしません。
卒業論文にしても、現在勉強のテーマにしている内容にしても、先行研究を読んで「この論文とあのレポートから、こういうことが言えるんじゃないか。事例がその報告に載っている。」というように繋げて考察するのが好きなだけなのかも…。



5.自分の巡検・旅行・街歩き観


地理学が面白い!と感じたのは、「世界と実生活がつながっている」という点でした。
私の巡検観にもそれが色濃く出ているハズです。

私は
  • 地理学で研究されている様々な空間現象が地域に現れている
  • その地域に現れた空間現象を確認するのが楽しい
  • 地理学的な空間現象が地域に現れた様子を確認するのが巡検である
こんな風に巡検を捉えています。
さらに、自分ひとりで行く旅行や街歩きも上記の延長線です。

簡単に言えば「地理・地理学の現地確認」が私の巡検です。



6.大学で地理研に入ってみて ―きっと楽しいことが大切


私は地理学の勉強をするだけで楽しいという異質な人間です。

さて、そんな私は大学で地理系のサークルの代表をしていました。
(当時は地理系サークルが関東で3つほどしか活動しておらず、そのうちの1つがある大学に合格できて幸運でした)
代表を始めた当初は「地理サークルなんだからもっと地理の勉強をして専門性を高めなければ」と考えて運営をしていました。
しかし、それではサークルの運営はうまくはいかない。

そもそもですが、なぜ人が集まる(サークルに来てくれる)かと言えば、「楽しい」からです。
地理学を勉強したくて集まっているわけではありません。(いるにはいますが少数です。ゼミに行けばいいじゃんってなりますよね)
そんなことに気づかせてくれたのが、大学時代のサークル(地理研)でした。

幸い、サークルの同期に恵まれて、1年間の運営を無事に終えることができました。
(途中で色々な軋轢があったりして…それに関してはとても反省しています)
今思い返すと、地理サークルでの思い出と言えば、巡検1回1回の内容や知識ではなく、無茶苦茶な工程で無理をした旅行や、花火大会や海水浴、サークル内でのいざこざ、巡検の昼食で焼酎を飲みまくってべろんべろんになった巡検…などなど、地理とは関係のない話ばかりです(笑)

趣味が「地理学」と学問に寄っていますが、「地理」や「地図」に関するイベントに対してのスタンスは、その場にいる人が「楽しければいい」です。
楽しくなきゃ人は集まらないし、人が集まってワイワイするのが楽しいのだから。
人と触れて何かをするときの第一は「みんなが楽しいことを」です。
ときには地理学の専門的な話も必要だと思いますが、「いかに面白く伝えるか」が鍵だと思っています。
 
最近、いろいろな大学で地理サークルが立ち上がっています。
もちろん、「地理・地理学を学ぶ」ことをするべきですが、それ以上に「サークルのメンバーがどうしたら楽しめるか?」を考えながら、短い大学生活を楽しんでくれたらいいなと思っています。

※地理学の学術的な勉強をするのが好きな人が集まっているのであれば、地理学の話をするのがいいと思います。


7.私の価値観に影響を与えたこと


私の人生にとって大きな出来事(一種のコンプレックス)が、用地買収と奨学金でした。
また、大学時代のバイト先も私の価値観に大きな影響を与えてくれました。
その3つの出来事についてちょっとだけ話をしたいと思います。

7-1.用地買収


大学3年生の時、住んでいた実家が都道の拡幅事業により用地買収されることになりました。
用地買収に伴う補償は、社会的に平均的で一般的と想定される現金を渡すというもので、望むような移転先が用意されるわけではありません。
(「用地買収されると儲かる」なんて言う話がありますが、条件次第です。)

ちょうど就職活動をしていた時期で、「実家にはお金も無いし、就職するしかない」と、就職を後押しするキッカケとなりました。
私にとって、法律や行政政策に生活を侵されるという経験でした。


7-2.奨学金


大学の学費350万円は奨学金を借りていて、自分で返済する必要がありました。
(※恵まれたことに社会人の2年で完済しました)

親に「お金貸して」と言ったら「貸せるお金が無い」と言われる感じだったので、必死にバイトしたのは良い思い出です(笑)
仲の良い友達は、親が学費を出してくれている人が多くいて、「この違いは何なのだろうか」とコンプレックスを抱いてもいました。

自分の借金で勉強している分、勉強に身が入ったという側面もありますが、学生にとって350万円の借金は非常に重い足枷でした。
世の中には、大学の学費がネックで、大学への進学をあきらめる人もいます。
「大学に進学する」「会社を辞めて独立する」そういった、大きな前払いは、お金の余裕がある者だけができる選択肢であることを、痛感しました。


7-3.コンビニのバイト


大学生の時の大きな経験として、バイト先の同僚がいました。
コンビニでバイトをしていたのですが、バイト先の半分が外国人でした。
バイトを始めた当初は中国人が多くて、バイト後半ではベトナム人とネパール人が増えていきました。

そんなバイト先の外国人の価値観は多様で、外国人に対する日本人の反応も多様でした。

あまりに日本人は、自分の生活が外国人に支えられていることに無自覚です。
そして、文化の違いに苦言を呈しがちです。

「中国人はガサツでデリカシーがなくて…」などとよく言われますが、(たしかにそういう側面も無きにしも非ずでしたが…)正直なところ日本人よりも中国人の方が要領が良くて、一緒に仕事をするなら、そこら辺の日本人よりも中国人と仕事した方が楽でした。
仲良くなると、お菓子をくれたり、中国のお土産をくれたり。
中国人の女の子に毎週お菓子をもらったのは良い思い出です。
あと、日本人よりも全然裕福でした。(お前、お父さんがホテル持ってるって金持ちじゃんかよ…)
中国と言う国の底力を感じた4年間でした。

ニュースを見ているとネガティブなイメージになりがちな中国人ですが、基本的にいい人たちです。
世の中の価値観って多様だし、自分と異なる価値観と遭遇した時には理解できなくとも、そういう価値観があるということを受け入れなくてはならないなと、シミジミ感じたバイト生活でした。

7-4.そんな経験から


この3つの経験から、社会的弱者、政策や経済の負の側面に目が行くようになりました。
おそらく、現在「高速道路が地域に与えた負の影響」を勉強しているのも、この経験が無意識に働いていると思います。

そして、価値観の違いがあまり気にならなくなりました。
世の中には「これが絶対正しい」という事は、そう多くありません。
ちょっと気にかかることがあっても「きっと、彼ら・彼女らには、何かしらの経験や背景があって、こういうことを言っているのだろう」と、あまり気にする気にもならず(笑)
モノゴトに対してのこだわりが無くなったのは、これらの経験のせいかなぁ…。



8.就職するのか、院進するのか。


こんなにも地理が好きで、地理学を愛していた(笑) 私ですが、就職をするか大学院へ進学をするか、悩んだ結果、就職をしました。

  • 就職をするのか、進学するのか。
  • 地理系の企業(GIS・地図)に就職するのか、それ以外の企業に就職するのか。
これを悩みつつの選択でした。

研究を続けたいという気持ちもありましたが
  • 350万円の借金(奨学金)がある (研究者として収入を得るのは茨の道だし、ライフコースのイメージが湧かない)
  • 研究者として成功していけるだけの明確で意義のある研究テーマがない
  • 研究者としての素質が自分にあると思えない (研究するより、先行研究をまとめる方が好き…)

こういったこともあり、就職を選択しました。
ちょうど、就職活動のときに、実家が用地買収され「移転するにもお金が足りない」という話が浮上していたのも、就職を後押しする要因になりました。
350万円の借金があって、家が無くなるというのに大学院には行けないな…とシミジミ考えていたのをよく思い出します。

あとは、地理系の企業に就職しなかった理由ですが…、地図に人生を捧げるだけの愛着が湧かなかったというのがあると思います。
大学での勉強をする中で「地図はあくまでも地理学の研究ツールにすぎず、地図自体は研究課題とはならない」という意識が湧いてきたのだと思います。

そんなこんなで、大学サークル:地理研の同期で一番の大学院進学筆頭株と言われた私は就職することになりました。



9.就職してみて思ったこと、そして在野にいて


9-1.就職してから


就職して1年間は、《趣味程度》に地図や地理に触れていればいいやと思っていました。
郷土資料館めぐりをしてみたり、「地図展」に行ってみたり、誰か主催の街歩きに参加してみたり、トークイベントに参加したり、地図イベントに行ってみたり…。

しかし、1年ほどしたときに、趣味程度の地理や地図に違和感を感じ始めました。
「論文読んだり、学会発表を聞いたりする方が、楽しい…」「やっぱり地理学の勉強をしたい」
こんな感情が芽生え始めました。

地図自体は空間現象を表現するだけのもので、空間現象ではない。
郷土資料館なんか歴史を知れておもしろいけど、地域の表面的な結果にすぎない。
こんな、地理趣味への物足りなさを感じるようになったのです。

そして、会社生活への物足りなさも。
仕事は恵まれた環境ではあるものの、会社生活が40年続くと考えると、げんなりした気持ちになる。
安定した金は入ってくるけれども、何が得られるのだろうか。
会社に人生の時間を捧げているのであれば、会社という立場を利用して研究してもいいんじゃないか。
こんな仕事だけの生活への物足りなさもありました。

そんな気持ちを持ちながら過ごしていき、入社後1年半したときに「在野研究したい」「もっと地理学に触れていたい」という気持ちに火が付くことになりました。


火が付いたキッカケ①

入社後1年半したときの異動希望届の中で

  • 「日本地理学会所属」
  • 「いつか研究したい」
と備考欄に書いていました。
正直、本気では考えていなかったのですが、書いといて損はないだろう、の気持ちです。

その際の上司との面談で、「やりたいなら勉強してみれば?」「具体的に何を研究したいの?」と上司に言われました。
その面談で「研究したい」という気持ちに火がついてしまいました。


火が付いたキッカケ②

バイト時代の同僚だったネパール人と飲み会をしました。
そのネパール人に「夢は何?」と聞かれて、「いつか論文を書くこと」と答えたのですが、そうして自分自身の口で言葉にすることで「やっぱり自分は研究したいんだな…」と自覚しました。
言霊と言いますが、言葉にするのは大切ですね。

本筋とは外れますが、外国の人は「夢」や「人生の成功」というものを大切にしていると思います。
日本の社会が成熟しきっているからなのかもしれませんが、夢を語れるのが羨ましい。


火が付いたキッカケ③

入社後1年半で、付き合っていた彼女と別れました。
これを機に、「仕事」「地理」「地理学」「プライベート」の優先度に大きな順位変動が起きました(笑)
暇な時間が増えたし、気持ち的にも「何をしてもいいや」という気持ちになったと思います。
研究テーマをどうするか迷っていて、彼女の関係で「エスニック地理学」に興味が湧いていたのが、「インフラの地理学」に固まったというのも大きかったです。


9-2.研究を始めてみた


さて、入社から1年半、研究をしようと決意をした2018年10月から3か月ほどで、雑誌「人文地理」の『学界展望(※1)』の交通に関する記載を全部読みました。
※1 『学界展望』とは…人文地理学会が発行している雑誌「人文地理」には、1年に1回、その年の振り返り記事が掲載されます。その年に各分野で発表された論文すべてがレビューされるのです。これが意外と分野の研究の流れを知るのに参考になります。
そのあと、2019年1月から3月までは、高速道路に関する地理学分野での先行研究を読み漁る日々でした。
国会図書館・都立図書館に閉じこもり、ひたすら高速道路に関する先行研究の複写。
Ciniiで「高速道路/地理」といったキーワードで論文検索しまくりました

そして、入社3年目の2019年4月から6月までで、半年間勉強してきた内容をまとめて論点を整理して、地理の社会人サークルで発表したり、勉強が足りない点を考えたりしてきました。
地理学以外の分野の文献も読み漁りました。

ちなみに2019年7月以降は、引っ越しでドタバタで、足りなかった資料の収集で終わりました。
2019年9月ごろからは、繁忙期に突入した仕事をこなしつつ、怒涛の地理イベント参加を続けて、研究の時間が全く無くなります。
そして、仕事や地理イベントが落ち着いた2020年1月から再び、これまでの勉強の内容を振り返って整理しつつ、GISをいじるような日々です。


9-3.就職してよかったことは


「就職してよかったな」と感じるのは次のようなところです。
  • 「会社員」という社会的地位が得られる(学会などで社会的地位のある者、現場を知っている者として先生方と話をできる)
  • 学界内で、会社にいながら研究をする珍しい人として見てもらえる
  • 研究の課題意識を得られた
  • 研究のための社会経験(地理学の研究によく出てくる「行政」だとか「補助金」だとか「企業の意思決定」だとか、そんなことが薄々わかってきた、というのは重要な経験)
  • 収入
  • 研究を「純粋な楽しみ」としてできる、趣味程度に楽しく続けられる(成果が求められないし、生活がかかっているわけでもない)
  • (場合によっては)研究に役立つ裏情報が手に入る

私の場合、地理系の企業(地図・GIS)ではなかったのですが、それでよかったことは
  • 研究のネタが手に入る(地理系の企業で手に入るのは、研究のツールでしかない)
こんなところですね。


就職をしたデメリットとしては
  • 学問への感性 → 私の会社は古臭い企業なので、《文書を作ってハンコを押して》という業務がメインです。残念ながら学問的完成とは程遠い…。
  • 人脈 → 大学にいた方が常に研究者に触れ続けて、学問分野での人脈ができていきます。
  • 時間 → 社会人は恐ろしく時間がないですよね。時間ができても、常に疲れている状態で、布団へ直行です(笑)
  • 研究についての議論ができない → 自分の持っている材料をレベルアップできないんですよね…
  • 学会発表や論文についての作法がわからない
ちょっと辛いことが多いですね。

せめて地理系の企業だったら…
  • 人脈
  • 地理のツール
  • 研究や趣味への理解
こんなところは得られたのかなと思っています。

私はあまり意識はしていませんが、一般にこんなことも問題と言われたりしますね。
  • 学会発表するなら「会社所属」という肩書がついて回る(無責任なことは言えない)
  • 会社で知った情報の取り扱いにはとても気を使う
  • 会社にいるからと言って提灯記事となるような論評はできないが、それで会社の理解を得られるのか
こんなデメリットも。あんまり会社の業務に寄せた研究テーマだと、一長一短になります。


9-4.これから


在野にいて何ができるのだろうか、なんて考えたりします。
学問と世間との橋渡しになれるんじゃないかな、なんて思ったり。
地理学者が語っている専門知識を、かみ砕いて、楽しさを伝えられる立場なのかな。なんて考えています。

これからも細々と在野での研究を続けていくつもりです。
会社にいながら研究をするメリットも大きいので。
チャンスがあれば大学院に行ってみるなんてことも考えていますが。

在野研究は心細いものです。
在野研究しているような、同じ境遇の人と、盛り上げていければなんて思っています。



10.まとめ


"地理学"という存在には本当に感謝しています。

高校3年生4月で英語の偏差値35だったところから、なんとか大学に合格できるようになったのは、「地理学を学びたい」という気持ちのおかげでした。

大学でも地理好きに囲まれて楽しい大学生活を送れました。

コンビニエンスストアでのアルバイトでも、外国人が半数の職場だったけれども、地理を勉強していたのでそんな環境に抵抗が無かった。まぁバイトだから責任が無いのもあるのですが。

見ている景色全てが地理なので、飽きない。

そんな地理学に、これからも、しがみついていこうかなと思います。

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