2019年6月9日日曜日

東京都心の人口回帰と再開発 ―大規模再開発施設を巡る前に概論編―

ご無沙汰しております。
この記事を書いているのは前回記事投稿から1か月、6月28日でございます。
この1・2か月ほど、東北地理学会経済地理学会地理空間学会・大学時代のサークル(地理研)のOBOG会、旅チケット社会人サークル暮らしと測量地図展…等々、地理イベントが盛りだくさんで、ブログの更新をさぼっておりました。


さて、今回は、東京都心の再開発について書きたいと思います。
前回の 豊洲のウォーターフロント開発 で、都心回帰が起きていると書きました。

高度経済成長期・バブル経済期での郊外化と、バブル崩壊による都心の再開発・都心回帰について、概論を書きたいと思います。


具体的な個々の事例は後ほど、数回シリーズくらいでアップしていきたいと思います。


都心の再開発・都心回帰に至る流れ

《高度経済成長・バブル経済》

高度経済成長期・バブル経済期には、人口が都心から遠い郊外へ郊外へと離れていき、大都市東京は膨張を続けました。

郊外化の例としては、
  • 東京都心からの業務機能移転をもくろみ計画された→みなとみらい21・幕張・さいたま新都心・筑波研究学園都市
  • 郊外に作られたニュータウンである→多摩ニュータウン・千葉ニュータウン・港北ニュータウン・多摩田園都市
などが挙げられます。

バブル経済期には、都心の土地の価格が暴騰したことから、政府系機関は地価抑制策を取り、国鉄の土地などは売却にストップがかかっていました。

《バルブ崩壊》

バブル崩壊により都心を含めて地価が下落しました。
地価が安くなったことで、マンションなども建設しやすくなりました。
企業が多くの土地を持っていましたが、「不動産を持っていれば価値がどんどん上がる時代」は終わったので、企業用地は放出されました。
ストップがかかっていた政府系機関(国鉄)の不要地の売却もされました。
国内の不景気から、安い労働力を求めて工場が海外・地方へ移転しました。(=産業空洞化)

《都心の再開発》

バブル崩壊により、都心の土地が放出され、地価下落により開発が以前よりも容易に行えるようになりました。
こうした背景から、都心で再開発が行われ、都心の居住人口が増えるようになります。
ちなみに、都市の拡大・縮小の理論的には「再都市化」と呼ばれる段階になります。


再開発された地域とは

《再開発される地域とは》

バブル崩壊後に再開発された場所の特徴を挙げたいと思います。

◆都心に近いのに地価が安い(=レントギャップ)地域

都心周辺部のインナーシティと呼ばれる地域は、都心に近いわりに地価が安くなる傾向にありました。東京で言えば以下のような場所です。
  • 災害危険(木造密集)地域 :六本木ヒルズ・アークヒルズ・麻布台
  • ウォーターフロント :豊洲
そのような地域は、木造密集地・ウォーターフロント地域として再開発されていきました。ウォーターフロントの再開発は世界的な流れです。

レントギャップ

◆大きな再開発ともなれば、まとまった土地が必要

大規模な再開発となれば、それだけのまとまった大きな土地が必要です。
  • 工業用地・鉄道用地の再開発 :汐留・豊洲
  • 大名屋敷・軍用地を引き継ぐ土地 :ミッドタウン・神谷町
このような場所が再開発の対象になりました。

◆老朽化した公共施設・福祉住宅の再開発も行われるように

大規模再開発を行う際に、公共施設や福祉住宅の再開発を伴うようにもなっています。

  • 青山一丁目都営団地
  • 都営青山北町団地

福祉住宅(都営住宅など)を再開発(商業施設などを含んだ大規模開発)の対象としても良いのか、人によって賛否が分かれるものかと思います。

◆道路の整備と再開発と一体で行われる例

どうでもよい話かもしれませんが…道路の整備と再開発とが一緒に行われる例が見られます。
六本木ヒルズも虎ノ門ヒルズも、再開発施設の下を道路が通っています。

  • 六本木ヒルズ
  • 虎ノ門ヒルズ

近年になって法改正された事例なので、いちおう紹介を。


《再開発の開発手法》←民間企業が利益の得やすい法整備

◆容積率緩和の仕組み 空中権売買と大型開発のための法整備

再開発をする企業としては、限られた土地になるべく高層の建物を建てた方が、収入が大きくなります。
(あまりに高層すぎる建物だと建設費が高くなりすぎてしまいますが…)
再開発の事業者が高層の建物を建てて利益を得られるように、容積率を緩和する法整備がなされました。

・連担建築物設計制度(1999) :愛宕ヒルズ
複数の土地・建物を一体的に開発する場合1つの敷地としてみなして設計できる制度。
既存の建築物の未利用容積率を隣接地へと移転できる。

・特例容積率適用地区(2000) :汐留
許容される容積率の一部を区域内の別の建物に加算できる制度。
街区を超えて既存の建築物の未利用容積率を開発予定地へと移転できる。
いわゆる空中権売買です。

・総合設計制度
公開空地で容積率が増える制度。
敷地内に誰でも利用できる「公開空地」を設けることで容積率が緩和されます。
再開発と容積率緩和の概念図

◆地上げ から 市街地再開発事業 へ

市街地再開発事業 とは?

  • 敷地を共同化し、高度利用することにより、公共施設用地を生み出す。
  • 従前の権利者の権利は、原則として等価で新しい再開発ビルの床に置き換えられる(権利床)。
  • 高度利用で新たに生み出された床(保留床)を処分し事業費に充てる。


等価交換方式・権利変換制度

  • 再開発前の住民や商店主、借地権者などが再開発後の建築物に権利を有する制度。
  • 地域住民や中小企業にとって不利な法律。


等価交換方式のイメージ図

◆施設・複合開発

大型施設の新築件数は減少傾向にあるものの、一つの大きさは増加傾向にある
従来のオフィスビルは業務機能のみを収容するいわば「箱もの」であった。
土日祝日も含めた来街者を増やすために商業・宿泊あるいは居住機能を組み合わせた複合開発が増えている。


再開発がもたらしたもの

《ジェントリフィケーション問題》

ジェントリフィケーションとは、欧米で研究されてきた現象です。
もともとの「ジェントリフィケーション」の意味は、簡単にまとめると、古い住宅に、芸術家やヒッピーといった人々が住み、それにより地域の価値が上がっていき、高所得者が居住するようになる、それによりもともと住んでいた低所得者が追い出されるというような現象です。
そもそもの言葉の意味としては、古い住居のリノベーションという意味合いが主でしたが、日本の研究ではスクラップ&ビルドも含まれる場合もあります。

今回の再開発の文脈で言うと、古い木造密集地や都営住宅が再開発されます。
防災的側面や景観的側面では、災害に強い美しい街並みになるかもしれませんが、もともと住んでいた人は、再開発された高級高層マンションに住めなくなります。
住めたとしても、周辺地域の馴染みの商店がオシャレショップになったり、以前よりも生活しづらい場になってしまうこともあるかもしれません。

これも広義のジェントリフィケーション問題かなと考えています。

《マンション開発》

六本木ヒルズやミッドタウンのような複合再開発のマンションに居住できるのは、ほんの一握りの超高所得者でしょう。
それ以外にも、多くの新築マンションが建てられています。そのような都心のマンションには、都心志向の単身者が多く住んでいるとの研究報告があったりします。
また、都心の中古マンションも、郊外住宅から移り住んだ高齢者や、単身者を受け入れる住居になっているという報告もあります。
核家族化や高齢化が進む中で、様々な人が都心に居住するようになっています。

《企業理念による都市開発》 

再開発を行うのは、東京の場合、森ビル・三井不動産・三菱地所…といった企業になります。
そのような企業が、各々の企業理念に基づいた再開発を行います。
その再開発は、誰のための開発なのでしょうか?
おそらく、長らく住んでいた旧住民のための再開発ではありません。
場合によっては、特定の社会階層のみが集住する排他的な空間の出現することもあります。
そんなことを考えながら再開発を見てみる視点も必要かもしれません。

《周辺地域への影響―変容する商店街》

六本木ヒルズの近くにある麻布十番商店街は、もともと下町雰囲気のある商店街でしたが、交通利便性の向上と、六本木ヒルズの開業により、商店街の雰囲気が変わりました。



具体例

東京都心では、以上のような再開発の事例が多く観察できます。
  • アークヒルズ
  • 六本木ヒルズ
  • 東京ミッドタウン
  • 虎ノ門ヒルズ
  • 都営南青山一丁目団地
  • 都営青山北町団地
  • 表参道ヒルズ
  • 汐留
  • 愛宕ヒルズ
  • 麻布台再開発準備地区
  • 品川駅港南口
  • 豊洲  → 前回の豊洲のウォーターフロント開発で紹介済み
  • 大崎ゲートシティ・ニューシティ
それぞれ面白い事例ですので、何回かシリーズで紹介していきたいと思います。

再開発された"施設"に着目することは多いと思いますが、このような再開発の"文脈"にも着目して紹介をしていきたいと思います。

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