それから1年ほどは、地理の世界から離れていましたが、2018年10月ごろから、どうにか地理学の研究をできないかと勉強を始めました。
研究のテーマは「高速道路整備が地域に与える影響」です。
その研究テーマについて、1年間かけて先行研究を読み込んできました。
これまでに考えてきたことをまとめたいと思います。
目次
(今回) 6/23付記事
1.私の問題意識
2.これまでの研究の流れ
3.研究の視点
(第2回) 7/7付記事
4.研究の視点①ストック効果- 4-1.分野別ストック効果① 農業
- 4-2.分野別ストック効果② 工業
- 4-3.分野別ストック効果③ 観光業
- 4-4.分野別ストック効果④ 小売業
- 4-5.分野別ストック効果⑤ 卸売業・物流施設
- 4-6.分野別ストック効果⑥ 企業の営業活動、企業立地
- 4-7.分野別ストック効果⑦ 土地利用の変化・都市構造の変化、人口移動
5.研究の視点② フロー効果の検証
6.研究の視点③ 合意形成過程に関する研究
7.研究の視点④ その他の視点
- 7-1.近年に出てきた様々な視点
- 7-2.『ストロー効果』についての研究
- 7-3.高速バスについての研究
- 7-4.SA・PAと地域との連携についての研究
- 7-5.上限1000円制度、休日割引制度、地方地域の高速道路無料化といった政策の効果に関する研究
- 7-6.新直轄方式による高速道路や、スマートインターチェンジについての研究
- 7-7.日本道路公団民営化の是非に関する研究
- 7-8.住民が抱くイメージについて
8.研究で得られたこと、これから得ないといけないこと
9.研究の方策
10.近年の研究をふまえて
※記事を書いたのは12/1ですが、投稿日設定は6月~8月に遡っています。
さて、私の問題意識は1点。1.私の問題意識
「地域経済を活性化させるとして整備推進されてきた高速道路は、地域を幸せにしたのか、どのような変化を地域に与えうるのか」です。
以下のリンク先に、高速道路が整備されたことによる、地域経済への効果の事例が載っています → 日本高速道路保有・債務返済機構
また、高速道路をはじめとした公共事業には、「事後評価」という制度があり、事業評価監視委員会によって、高速道路は供用開始5年以内を目途に、その効果が検証されます → NEXCO東日本プレスリリース
さらに、1980年代から1990年代までは、日本道路公団審議室(後に調査情報室)が、高速道路が地域に与える影響について報告書を出していました。
これら事例集・事後評価・調査報告書を読むと「高速道路ができれば、野菜の出荷が増えて、観光客が増えて、工場も立地して、みんなハッピーになるんだ!」という印象を受けます。
実際、そのような整備の効果が信じられて、高速道路が整備されてきました。
高速道路の建設区間は法律で定められ、厳しい予算のもと、ときには土地収用法による土地収用を伴いながら建設が進められます。
そのような建設の過程で、「本当に高速道路が必要か」という議論は幾度となくされて、その結果「やっぱり必要だ」と建設が決定しています。
しかしながら、"整備効果"は沿線地域に"一律に"現れるのでしょうか。
多くの研究者が、聞き取り調査や、統計的な分析や、文献調査を通じて、高速道路が地域にどのような影響を与えたのか調査してきました。
もちろん、高速道路によって発展した地域も報告されています。
一方で、高速道路ができたからといって、経済活動が発展したわけではない場所も報告されています。
誤解してほしくないのですが、決して、高速道路の整備に反対するわけではありません。
しかし、整備するにあたって、
- 「併せて行うべき政策があるかもしれない」
- 「過度の期待をしてはいけないのかもしれない」
- 「高速道路ありきの地域政策ではダメかもしれない」
- 「成功する地域の法則があるのかもしれない」
2.これまでの研究の流れ
高速道路に関する地理学の研究は、名神高速道路が日本初の高速道路として開通した1963年前後から始まります。
その研究の流れを見てみます。
その研究の流れを見てみます。
古典的な高速道路研究 予想と報告の1960年代から1970年代
名神高速道路・東名高速道路・関越自動車道が開通する前から、高速道路が開通することによってどのような地域の変化が起きるのかを予想する論文が書かれました。そして、これらの高速道路が開通した後には、「工場がたくさん立地した」「農作物の出荷に利用されている」といったような報告の論文が多く書かれます。
このような古典的な高速道路研究の成果として、1979年に「交通変革に関する研究グループ」が成果をまとめて発表しています。
計量地理学の影響を受けた1980年代
地理学では1980年代ごろに「計量地理学」という一大ムーブメントが起きます。語弊があるかもしれませんが、端的に言えば「コンピューターで統計の分析をすれば世の中の法則が解明できる」という考えで、コンピューターによる統計分析をメインにした研究が盛んになった時期です。
この流行をもろに受けたのが交通地理学分野でした。
高速道路研究も御多分に漏れず、農作物の出荷額の変化や、工業出荷額の変化を、統計的に分析する研究が盛んに行われました。
1980年代は日本の背骨となる高速道路(縦貫道)が完成しつつある時期でした。
また、学術分野ではありませんが、1980年代から1990年代にかけては、日本道路公団審議室(調査情報室)が民間シンクタンクに調査委託し、高速道路の地域への影響について報告書を発行しています。
巨大事業が完成した1990年代、JITへの注目
1990年代に入ると、瀬戸大橋(1988年)、明石海峡大橋(1998年)、アクアライン(1997年)と、日本の構造を変える巨大事業が続々と完成します。このような大きな事業の影響を評価する論評が多く書かれました。
また、1990年代にはJIT(ジャスト・イン・タイム)物流が注目され、JIT物流を支えるインフラとして高速道路に焦点があてられました。
※JITとは:JustInTimeの略称。端的に言うと「ほしい時に欲しいものを欲しいだけ」。それまでは大量生産が行われていたが、消費者の多様なニーズ・ライフスタイルに合わせて、多品種少量生産・流通を効率的に行うシステムの総称。
2000年代に入って
縦貫道の建設や、本四連絡道路といった巨大事業が完成した後、2000年代以降は横断道と言われる地方部の高速道路や、スマートインターチェンジの整備が進み、日本道路公団が民営化した時代です。2000年代には、主に工学分野でGIS(※)を利用した、より高度な統計分析が行われるようになりました。
※GIS:「地理情報システム」のこと。簡単に言うと、統計データと地図とを結びつけて、高度な解析ができるソフトのこと。
さらに、2010年代になると、地方銀行のシンクタンクによる報告レポートが散見されるようになります。
地方部での高速道路の開通を報告するレポートや、高速道路の休憩施設や道の駅と地域との連携を報告するレポート、無料化の効果を検証するレポート…などなど。
報告レポート止まりのものが多いですが、研究の足掛かりになる報告も多く見られます。
3.研究の視点
高速道路に関する地理学的研究の視点を以下の4点に分けたいと思います。- 高速道路のストック効果に関する研究
- 高速道路のフロー効果に関する研究
- 高速道路の整備・建設過程に関する合意形成に関する研究
- その他の研究
国土交通省HPより |
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次回から4回にわたって、4つの研究視点について解説して、今後の展望をまとめていきたいと思います。
なお、ブログに記載の内容は全て、学術研究の一環として、個人的に課題意識をもって勉強してきた内容で、特定の機関の意見等ではございませんので、誤解のないようにお願いいたします。
本記事の内容を使用する際にはご一報ください。
(令和元年12月1日)
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