2020年4月19日日曜日

「高速道路の地理学」の研究課題

以前に、「高速道路の地理学」をテーマに、先行研究の整理と、最近考えていることをまとめました。
まともな文章も書けないのに全6回の超大作にしてしまいました…(汗)

コロナウイルスで外へ出れず、いい勉強の時間だということで、先行研究を再度振り返ってみました。

注意:5000文字の長文になります。




地理学の高速道路研究に関する課題意識・研究視点


高速道路の整備が地域に与えた影響について、公的な評価としては
  • 事業評価
  • 整備効果事例集
  • 土地収用法の事業認定
などがありますが、いずれも良い影響の事例をアピールするだけで、地域の実態を解明するものではありません。

また、工学分野での研究は、高速道路の構造に関する研究か、数量的な分析がメインで、地域社会に与えた影響の実態解明は進んでいません。

地理学で高速道路が地域に与えた影響について研究がなされてきましたが、多くは1970年代から1980年代の研究で、日本が高度成長を遂げていた時代の研究です。

ゼロ成長の時代と言われる近年に建設された地方の横断道について、地域に与えた影響をプラス面からマイナス面まで、観察する必要があるかもしれません。

なお、私は高速道路の整備は必要であると考えています。時に高速道路は命の道となり、国民の生命を守ります。現代の流通は高速道路あってのものです。
ただ、整備する際に"高速道路ができるメリット"だけをアピールして、整備・建設を進めるのは、地域にとって良くないことであると考えています。
既往研究の課題点


「高速道路の地理学」と言っても、その研究視点は様々です。
大きく研究視点を分けると
  1. 高速道路の整備過程
  2. 高速道路の整備効果
  3. その他の視点
という視点が考えられます。

「高速道路の地理学」の研究視点


研究課題


「高速道路の地理学」について、各分野(視点)ごとに、研究課題を簡単に(?)まとめたいと思います。


農業・水産業への影響について


高速道路が整備された初期(1980年代)には、たくさんの農業に関する記事・レポート・論説が書かれました。
その多くは、「高速道路が開通すれば、出荷に要する時間が短縮され、農業の生産額が増加する」という期待を述べたものです。
高速道路の開通により、時間短縮が起き、流通が広域化したことは事実です。
しかしながら、その時間短縮・流通広域化が農業生産活動にどのような影響を与えたのかは明らかにされてきませんでした。

また、統計的な分析では、「高速道路の開通で農業出荷額が増えた」という報告も、逆に「農業出荷額が減った」という報告も双方あります。

もしかしたら、1・2時間ほどの時間短縮では市場では有利にならず輸送コストだけが割高になるだけかもしれません。
時間短縮という事実を示すだけではなく、それによって農家の暮らしや農業生産活動がどう変化したのか、本当に農業生産の増加につながったのかを取り上げる必要があります。

また、水産業に関しては、農業よりもより鮮度が命であるはずで、農業よりも高速道路の開通による出荷時間の短縮の効果が大きいはずですが、研究されたことはありませんでした。
水産業に関する研究も必要です。

高速道路の農業への影響

観光への影響について


高速道路開通前に「高速道路が開通すれば観光客が増えて地域が活性化する」という予想・期待をしたレポート・論説が多くあります。
また、高速道路開通後には、沿線の観光地で観光客数が増加したという報告をするレポートがあります。特に高速道路会社や国土交通省による整備効果事例集では、観光客増加の事例が強調されています。
はたして、そうなのでしょうか。

高速道路開通によって観光客の増加を期待する声が多い一方で、統計的な分析では、
  • 高速道路が開通が、観光客の増加と相関しないこと
  • 宿泊客は減少する
  • 開通効果で一時的に増えた観光客も、数年で頭打ちになり、その後は減少すること
このような分析が報告されています。
また、高速道路が開通しても観光客が減少した事例も報告されています。

こういった高速道路開通と観光の実情、特に高速道路が開通しても観光客が増えなかった、むしろ減少した事例を明らかにする必要があるでしょう。
高速道路の開通による観光客の減少を示唆したレポートは 前回の記事 で紹介しています。

高速道路が観光に与えた影響


人口への影響について


いわゆる「ストロー効果」が起きて、非都市圏から都市圏、より上位都市へ人口が流出(集中)するという報告(統計的分析)がされています。
多くの工学系の分析で、そのような結果が示されていることから、高速道路の整備が人口流出に寄与しているのは確かでしょう。
しかし、高速道路が整備されると、なぜ人が動くのか、誰も言及していません

新幹線整備でも同様に、「新幹線が整備されれば地方に人が動く」との期待が持たれ、新幹線が整備されてきました。しかし、「それが本当なのか・なんでそうなのか、が明らかにされていない」との議論が2019年の東北地理学会でありました。
この議論は高速道路でも一緒でしょう。

高速道路と人口について


事業所(企業組織)への影響について


企業については、高速道路の整備によって
  • 移動時間・移動コストが削減されることで都市への一極集中が強まる
  • 高速道路の開通が即座・直接に企業組織の再編のきっかけになることは少ない
  • しかし、企業組織の改編が検討された時に、高速道路による交通の変化をふまえて、事業所立地が選択される
  • 東名高速道路の開通によって事業所の都市への集中が加速された
ことが明らかにされています。

理論的・実証的な研究はされてきましたが、統計的な分析が弱い分野です。
(なぜか近年の統計的な分析では"事業所数"は対象にされていない)
近年の統計を用いつつ、上記の検証をする必要があります。
高速道路が企業に与える影響

工業


工業についてはほかの分野に比べて多くの研究蓄積があります。

  • JIT生産を行うために高速道路が必要なインフラであることが示され
  • 高速道路を利用している工場の立地要因についても研究がされ
  • 統計的な分析でも高速道路と工場の立地に正の関係性が認められています

ただ、必ずしも高速道路を必要とはしない業種の存在が報告され、沿線内でも工場誘致に成功した自治体とうまくいかなかった自治体とでの差が示唆されていますので、高速道路の路線単位ではなく、さらに詳細な市町村・工業団地ごとの成否の分析が今後の課題です。

高速道路の工業への影響


卸売・物流


研究蓄積は量的には少ないですが、高速道路が物流施設の立地を促進し、高速道路の結節点となった場所に物流施設が立地することが、いくつかのレポート・論文で統計的・事例的に報告されており、取り急ぎ研究する必要は無さそうです。

高速道路の卸売・物流への影響


小売業と都市構造への影響について


小売業に関する研究では、
  • 上位都市へ消費が流出する
  • 地方へ中央資本が進出して地元商店街が苦境に立たされる
  • 郊外のIC付近にショッピングモール・アウトレットモールが立地する
という報告がされてきました。

統計的な分析では
  • 非大都市圏から大都市圏(特に大都市圏郊外部)へ消費が流出する
ということが研究されてきました。

しかし、これらの研究は全て、
  • 「都市 対 都市」
  • 「非都市圏 対 都市圏」
という、二項対立を前提とする研究です。

商環境の変化は、二項対立ではとらえきれないはずです。
近年では、インターチェンジ周辺(都市郊外部)に大型ショッピングモールやアウトレットモールが立地して地域活性化に貢献している(?)という報告が多々あります。
一方では、中心市街地が衰退の一途をたどっています。
特に、中心市街地と郊外ロードサイドという都市内部での構造変化は、現代の都市の特徴、商環境の変化として顕著であるにも関わらず、全く研究されていません。


都市構造の研究に目を向けると、
  • 高速道路のIC付近では、土地利用が農業から工業・商業へ変化
  • 金融業は駅前に残るが、営業が必要な事業所は郊外ロードサイド・IC付近へ移動
と言うことが報告されています。


このような都市内部での構造変化を"高速道路"という要因に注目して(どこまで"高速道路"が要因となっているかはわかりませんが…)分析する必要がありそうです。
ただし、ざっくりとした課題意識だけで、具体的な研究課題は明確になっていないので、ちょっとずつ考えながら進んでいく必要があります。

小売業と都市の課題


「ストロー効果」について


地理学の世界では使われないのですが、工学分野で「ストロー効果」という言葉がたくさん使われて、統計分析がされています。
しかし、この言葉、有名なわりに定義が曖昧です。
論文によって

  • 高速道路非沿線自治体から高速道路沿線自治体への消費・人口等の流出
  • 地方から大都市への消費・人口の流出

という異なるスケールの話が混在しています。
また、「ストロー効果」が指す対象も、人口だったり消費だったり企業だったり、それらをひっくるめていたり、ぐちゃぐちゃです。

高速道路のストック効果の検証をしながら「ストロー効果」という言葉の定義を考えなくてはなりません…。


合意形成過程について


全国的な高速道路の整備計画は、全国総合開発計画で策定された国土を実現するべく、国土開発幹線自動車道建設法・高速自動車国道法によって整備する路線が決定されます。
どのような国土を目指して高速道路ネットワークが計画されてきたのかや、整備の財源については、多く論説があります。

しかし、高速道路の建設が決定されてから開通するまでの、地域の建設の賛否の様子は研究されてきませんでした。
論文ではないですが、経済地理学会の部会での発表において、
  • 法律で定められた"場所を管理"するルールに基づいて土地を買収・収用する事業者
  • "場所への思い入れ"によって土地を手放したくない住民
  • 事業者と住民との対立が見られ、両者が納得するスキームが必要だ
いう発表がありました。

高速道路に関して、その反対運動で有名な事例が、東九州道のミカン畑です。



日本全体の発展のためにというマクロスケールな視点での法律に基づいて建設される高速道路と、実生活や思い出というミクロスケールでの住民感情との、賛否の対立は地理学で研究する視点となるはずです。

残念ながら、道筋が描けていませんが、ちょっとずつ勉強を進めたいと思います。


交通システム・地域政策と高速道路


以前の記事(→「最近の議論の振り返り」)で報告したことですが、
地域政策のなかで高速道路をどう位置づけるかという議論が不十分だと思われます。

舟運・徒歩から、鉄道の時代に移り、自動車が交通の中心となり、都市郊外のロードサイドが発展してきました。
鉄道中心のコンパクトシティが模索される中、鉄道の運営は独立採算が基本です。
一方で、税金が投入されて高速道路が建設されていく。

都市の構造と、交通政策は、矛盾を抱えながら、高速道路は交通手段とはみなされないままに、都市政策が進んでいます。

高速道路を交通政策・地域政策にどう位置づけるのか、考えていく必要があるでしょう。


休憩施設と地域連携


最近の地理学での道路に関する研究のホットな話題は「休憩施設と地域連携」です。
道の駅をはじめとする、道路の休憩施設を地域の拠点として、観光客と地域とを結びつける動きが報告されています。

これらの報告は一般国道の道の駅が中心ですが、高速道路の休憩施設(SA・PA)と地域との連携に着目しても面白いかもしれません。


新直轄方式(無料区間)やSIC(ETC専用出入口)の効果について


日本道路公団の民営化によって、不採算路線は税金で建設されて無料の高速道路として供用されることになりました。
近年ではSIC(スマートインターチェンジ)と言われるETC専用の出入口が多く建設されています。

これまでに建設されてきた、有料道路としての高速道路や、フル規格のインターチェンジと、無料の高速道路・SICとが、地域に与える影響がどれほど違うのか、研究が必要かもしれません。



あとがき


高速道路は整備が始まった当初は日本列島の構造を変革する一大インフラとして期待されていました。
しかし、建設後の振り返りが不十分なまま半世紀。

特に研究が必要だと感じられる点は赤色で記載しました。
また、ゆくゆく見ていきたい点は青色で記載しています。

仕事が忙しい中ではありますが、ぼちぼち勉強を進めていきます。

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