2019年11月10日日曜日

アートツーリズムの島へ

今回は、ツーリズム(観光)の話をします。

昔は、「観光」の一言で済んでいた観光分野の地理学研究ですが、現在では、
  • アートツーリズム
  • グリーンツーリズム
  • インフラツーリズム
  • インバウンド
  • アグリツーリズム
  • ルーラルツーリズム
  • ナイトライフ観光
こんな具合に、多様化する観光が注目されています。

そんな観光行動の一つ、アートツーリズムで注目されている島を紹介したいと思います。


今回紹介するのは、香川県の直島です。

直島ってどこ?

直島は香川県の島です。
瀬戸内海に浮かび、岡山と高松の間に位置します。
岡山県側の宇野港、香川県側の高松港からフェリー・高速船でアクセスできます。
フェリー・高速船は高松からは一日10往復、宇野からは一日33往復出ています。
フェリーで上陸

直島の中を見てみると、

  • 島の北側に三菱マテリアル精錬所
  • 島の中部に主要な港と港町
  • 島の南部にベネッセアートサイト直島
という構成になっています。



直島の歴史 衰退と活性化

直島はもともと、三菱マテリアルの鉱山の島でした。
1917年に三菱マテリアルの精錬所を誘致。精錬所の労働者で繁栄しました。
三菱マテリアル生協のお店がある
しかし、1970年代から精錬所の労働者数は減少し、島の経済は打撃を受けます。
その1970年代から、島の文化施設を中心部に集めて「文化ゾーン」を作るなどの取り組みをしていました。
その後、1985年から町長とベネッセにより、直島南部の開発が進みます。
ベネッセが開発した施設が、「ベネッセアートサイト直島」というアート施設でした。


アートツーリズムの中核施設 ―ベネッセアートサイト直島

アートツーリズムの中核となっているのは、「ベネッセアートサイト直島」という施設です。

ゲートを通るとベネッセアートサイト直島に入れます。
なお、直島村のバスで、このゲートまで行って、そこから施設のバスに乗り換えるなどして、施設内に入ることになります。
ベネッセアートサイト直島へはゲートから入る

ベネッセアートサイト直島は、美術館・ホテル・アート作品などからなる、「芸術」をキーとした複合施設です。

地中美術館という美術館が最も有名で、たくさんの観光客が訪れています。

地中美術館の入り口
地中美術館から瀬戸内海を眺める



ベネッセアートサイト直島は広い公園のようで、その中でアート作品が点在しています。
黄色いカボチャ
これもアート作品
ベネッセアートサイト直島の施設は、自然と調和することが目指されています。
地中美術館がなぜ「地中」なのかというと、瀬戸内の良好な景観・自然を壊さないように、地中に作られた美術館だからです。
また、アート作品も自然を生かすように配置されています。

地中美術館も、そのまわりの施設内も、とても多くの人がいて、賑わっていました。

港町を見てみる

直島には宮浦港・本村港という2つの港があります。
その2つの港を中心として、芸術家のギャラリーや街中アート作品が点在しています。
宮浦港のアート作品

宮浦港のアート作品
宮浦港地区の銭湯アート
銭湯に入れます

本村港のアート作品

本村港地区の建築物

本村港地区にある古い建物を生かす取り組み

本村港の街並み

本村港の街並み

「家プロジェクト」と言われる、古民家を生かしたアート作品・建築物を中心にアート作品が街中に点在しています。
(「家プロジェクト」にはベネッセの協力もあるようです)

1980年代には、ベネッセアートサイト直島と港町はさほど交流が無く、直島の地域性が注目されることも無かったようですが、徐々に、直島固有の地域性が着目されるようになっているようです。

ベネッセアートサイト直島と、街中アートと。

ベネッセアートサイト直島で地域経済が活性化しているのは、確実です。
多くの観光客が来ていたのに加えて、地中美術館なんかにはたくさんの係員の人がいて、一大産業だと感じました。
瀬戸内国際芸術祭というイベントが3年に1回開催されているようで、日本の中でも有名な芸術イベントとなっています。

地理学の観点から知りたいと思った点は2つ

①ベネッセアートサイト直島の経済利益と島の経済
直島のアートツーリズムは、ベネッセアートサイト直島が中心となっています。
おそらく、観光客がベネッセアートサイト直島に支払ったお金のすべてが直島に還元されているわけではないと思います。
その点、どのような経済構造になっているのか気になりました。

②街中アートとベネッセアートサイト直島との関係
ベネッセアートサイト直島はある意味、ゲーティッドコミュニティです。
ベネッセアートサイト直島の施設は直島の中でも仕切られた空間になっています。

ベネッセの施設と、島の港町とで、どれほどの交流があるのか。
港町には街中アートやギャラリーが点在していますが、それとベネッセの施設との関係性はどうなっているのか、気になるところです。

③街中アートが集まる要素
直島の港町には、多くのギャラリーなどが立地して、移住者も多くいるようです。
はたして、他の島でも同じことができるのか、ベネッセの施設があってこその地域づくりだったのか、気になります。

まとめ

芸術を中心とした地域づくりで成功した香川県の直島。
その中核となっているのは、ベネッセアートサイト直島という施設ですが、施設と港町との交流や関係性や、島民の感情について、もっと深堀りできるかもしれません。


参考文献

日本地理学会発表要旨集 2014s(0), 100065, 2014直島におけるアート・ツーリズムの発展と観光者の特徴. フンク カロリン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2014s/0/2014s_100065/_pdf/-char/en

ベネッセアートサイト直島における「直島らしさ」の形成をめぐって. 髙見澤なごみ・古 田賢・枝木妙子・永井彩子・後山剛毅. Core Ethics : コア・エシックス (12), 331-341, 2016-03
http://r-cube.ritsumei.ac.jp/repo/repository/rcube/7443/

photo


古くの養殖場
海が石垣で仕切られている
オリーブ畑
オリーブ畑
ご当地?バーガー
たしかハマチのバーガー



感謝

直島でバスを待っていたところ、島のおじちゃんに拾っていただき、車でいろんなところを案内してもらいました。ありがとうございました。

1 件のコメント:

  1. こんにちは。元直島の中の人、そして元地理学徒です。取り上げていただきうれしいです。
    「知りたいと思った点」について、コメントさせてください。
    ①観光と経済についてですが、ベネッセ・福武家の考え方として、「公益資本主義」なるものが掲げられています。営利企業であるベネッセ社の利潤を社会に還元していく仕組みとして、創業家のもつベネッセ株を文化活動を行う財団に一部移転し、配当を原資に施設を建設したり運営維持を継続的に行うというものです。
    https://www.fnn.jp/posts/00289450HDK
    もっとも、美術館活動を展開する主体は公益財団法人で税制優遇を受けているため、納税というかたちで地元に大きな資金が流入するわけではありません。しかし、島を目的地に各地から観光客が流入したり、スタッフが住まうことによって、間接的に島内に経済活動が生まれているということになります。
    なお、直島の経済という意味では三菱マテリアル社の工場城下町としての側面がつよく、平成の大合併時にも独立町政を維持しています。「三菱が島を豊かにし、ベネッセが島をにぎやかにした」と島の人は言っていました。
    ②「街中アート」というのが、おそらく本村地区の家プロジェクトと宮浦地区の直島銭湯、ギャラリー六区あたりを指すのかと思いますが、このあたりも基本的にはベネッセの関係組織が運営しています。そのほか直島、豊島、犬島で展開する諸活動をふくめて「ベネッセアートサイト直島」と総称します(ややこしい名称です)。http://benesse-artsite.jp/about/
    人の流れとしては、うまくスケジュールを組めばまる1日で島内各施設回り切れますが、行程があわただしくなるのと、それぞれに入館料が発生するので、一部のみを見るひとも多いです。島の人にとっては島南部の美術館エリアへは散歩以外ではあまり用事がありません。
    ③他地域への応用という意味では、有象無象の地域アートイベントが各地で勃興しており、その可能性と諸問題については以下に2冊あたりによくまとまっています。ご関心あれば。
    ・アートと地域づくりの社会学 直島・大島・越後妻有にみる記憶と創造 宮本結佳著 昭和堂
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784812217337
    ・地域アート 美学/制度/日本 藤田直哉編 堀之内出版 2016年
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784906708550

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